こうすればよくなる
それぞれの設備がなぜ障害者や高齢者にとって必要なのか、どのように設置したらより使いやすいのかを、自分の経験などを加えてまとめたものです。
<車イストイレ>
身障者用トイレ(以下、車イストイレ)は、普通の洋式トイレに車イスからの移動に十分な広さと、可動式の手すりなどがあって、出入口のドアも広いものを指して、話をしていきます。
交通バリアフリー法などを受けて、車イストイレを併設しているトイレも増えてきました。ただ、設置の仕方にはいろいろあり、大きく分けると以下のようになります。
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通常の男女別トイレの内部に、 |
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男女別には分かれているが、 |
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男女共用で1つ、車イストイレを設置しているもの。 |
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男女別に1つずつ、 |
このうち私が理想と思うのは3・4です。
なぜ1・2がまずいのかというと、例えば、脳こうそくなどで半身まひになって、介護が必要な人が、奥さんと外出した時、また、手が使いにくい女性がお父さんと外出した場合などに問題が出てきます。
特に1の設置の仕方だった時に、上の例のように異性が介護しないといけない場合、奥さんが男子トイレには入れないし、お父さんが女子トイレにも入れないでしょう。
上のように、必ずしも同姓だけが介護をするとは限らないので、3か4の設置の仕方が必要になってくるわけです。
また、普通のトイレにならあたり前にある、ハンドウォッシュなども、(中身でなくてモノが)ないトイレも多いのです。
JR大久保駅は、改札内も車イストイレがあるだけでなく、駅の入口のバス停前にも車イストイレ(3の方式)を含めた公衆トイレがあります。
「駅や市役所などの公共施設に行けば、車イストイレがある」というかたちがこれからの社会は必要だと思うので、このように市民トイレにも車イストイレがあるというのは大きいことだと思います。
また、公衆トイレや駅のトイレの中には、通常カギをかけていて、「使用されるときは事務所まで来てください」と張り紙をしている場合があります。
実際、カギをかけていないと高校生などの喫煙でコゲだらけのトイレも多いですが、誰でも使えるはずの公衆トイレまでカギをしてしまうのもどうかと思うのと、公衆トイレだとどこに行ってカギを開けてもらえばいいのかわからないこともあります。
理由はあるにしても、カギを閉めてあるトイレは、早急になくさないといけないと思います。
<グレーチング・歩道・床面の素材>
グレーチングというのは、道端にある側溝のフタです。この格子状のすき間に車イスの前輪や杖の先、歩行器の車輪がはまります。
最近は改良されて、細くなったものも多くなってきていますが、車輪がはまり込むと、車イスなどがガクッと止まるのに、体だけが前へ飛ぶように車イスから落ちたり歩行器でコケたりすることもありました。
歩道に立っている電柱なども歩道が狭いと、人と車イスがすれ違う幅さえなく、通りにくくなっています。繁華街では電線の地中化ということで、歩道の端に配電盤を作ることで、電信柱をなくすことも行われているようですが、なかなか全体的には浸透していっていないようです。違法駐車や放置自転車などの問題とともに、このような課題も残っています。
最近は、屋外でこそカラーブロックなどの利用で、きれいで滑りにくい歩道がでてきていますが、逆に屋内に関しては見た目重視の建物が多くなっているためなのか、新しく建てられた建物ではタイル張りの床が非常に多くなっています。杖をついた高齢者や障害者にとっては、杖が前に上滑りしてしまい体を支えきれずにコケる危険性が多いだけでなく、健常者の人でも雨の日には靴が滑って怖いという話も聞きます。
しかし一方では、凹凸のある床にしてしまうと、足の上がりにくい高齢者などがつまずいてコケるということもあるようで、多くの人が使いやすいものを、というのは難しいようです。
写真右上: 側溝の蓋 右側が旧タイプ、左側が新タイプ
写真右下: 右側はカラーブロックで滑りにくいが、左側はタイルで雨などにより水が浮くと危険
<エレベーター・エスカレーター・手すり>
エレベーターに関して、これから建てられていくものについては設置されていくでしょうが、今現在ある、建物について(特に大きさ)が問題となってくるように思います。11人乗りよりも小さいエレベーターだと、車イスが中で転回できないのでエレベーター自体があっても小さすぎると使いにくい場合があります。ただこれについては、スルー型(両側に扉がついていて、通り抜ける形で入ったドアの反対から出るタイプ)のものができているので、設置するフロアの広さに余裕があるところなら、これで解決できることになります。
エレベーターがないならエスカレーターでいいのでは、と考えてしまうかもしれませんが、エスカレーターの場合は手すりも自動で動いているので、手と足の位置が同じで乗らないとバランスが崩れて、手が先に行くと足が残ってしまい前へ、足が先に乗ってしまうと手すりを握れず後ろへ、それぞれコケてしまう危険性もあるのです。
階段の手すりは、障害者や高齢者などにとっては必需品です。ところがこの手すりもあまり重要に思われていないのか、あと一段残っているのに手すりが終わっていたり、階段の端と同じところまでしか付いていなかったり、手すりが連続しないで大きく途切れていることが多く、ひとつ間違えると頭から落ちることも考えられるので、改善する必要があると思います。
<無人駅化・ワンマン化>
どの企業でも最近はコスト削減、ということが言われています。
車イス利用者などが街へ出ていくためには鉄道利用が多くなります。まず駅へ行って、駅員に切符を買ってもらってホームへ下りて、電車に乗る際の車イス介助…、また下車駅に連絡してもらって電車から下りる際の介助など。無人駅から乗車なら切符は関係ないけれど、乗車の時の介助や下車駅への連絡などは全部車掌さんにやってもらうわけです。また帰るときは、下車駅が無人駅なのだから電車を降りたあとの付き添いや介助の人はいないことになります。
ワンマン化については、上で書いた流れの中の「車掌さん」がいないので、全てを駅員さんに任せるわけですが、駅同士の連絡ミスなども起こります。
駅に行って「切符を買ってください」と言ったところ、『介護者がいないと乗せられない』と言われ、「大丈夫だ、家の許可を得て外出した」と答えると、『危なっかしいからダメだ』と断られ
最後には他の駅員さんが出てきて『いいじゃないか、通してやったら・・・』と言われるほど。「そんなに危なっかしいなら、下車駅の駅員に連絡してくれ」と言ったのに、下車駅のホームには駅員はおらず・・・。
ということがありました。
人員削減、ということの中で気づかないうちに、「弱者のために必要な人員」までも削減してしまっていることはないでしょうか。こんな駅員さんはもういないと思いますが、安心して利用できる交通機関にするにはどういうことが必要なのか、もう一度きちんと考えてほしいものです。
<「専用」はなくしていこう>
バリアフリー化を進めていく中で、「障害者専用」という表示を貼ったエレベーターやトイレを見かけることがまだまだあります。
しかしこれは、UDの観点から見ていくとちょっと配慮がないことになります。
というのも、健常者でも荷物が多い場合に普通のトイレには荷物を持って入りにくい状況とか、体がしんどくてどうしようもない場合にはエレベーターを使っても良いと思います。確かにバリアフリーの観点から見ると、障害者や高齢者の人を「最優先」にするべきではあると思いますが、そういう人たちがいない場合で、どうしても使いたい理由がある場合は健常者の人も使ってこそ「本当のUD」にもつながっていくと思います。
車イス専用トイレと同時に、普通のトイレにも広い洋式トイレを作るなど、いろいろな状態の人たちに対応したものを整備することがUDにもなると思います。
注)右写真の「ステーションプラザ明石」については、現在の表示とは異なります。 こちら をご覧ください。
<まとめ>
ユニバーサルデザインにしてもバリアフリーにしても、これからの社会に必要な考え方です。しかし、「この程度でいいだろう」とか「設置しているからいいだろう」という考え方をまず改めて、「本当に使いやすいものなのか」というところから「設備を必要とする利用者と一緒に」きっちり見直す、または高齢者疑似体験みたいなものを経験して実感するなどしないと、結局は中途半端なままになりそうな気がします。「これから新たに作っていくもの」も大事だけれど、「今、現在あるもの」を使い続けていくこともあるわけだから、それを見直して、作りなおしていかないと諸外国のような「人にやさしい街・明石」にはなっていかないと思います。